1億万本の花を贈る


八月二十二日あまりにも空が高くて目がくらんだ。いつかわたしにくれた桔梗が庭の隅っこで咲いている。ずっと伸ばしていた髪をきった。あれは六年もまえのことだ。わたしの髪を結ってくれる時間がとても好きだった。町を歩けばなまえを呼んだ。心のなかで呼んでいた。人は人を忘れるとき1番はじめに忘れるのは声だよとわたしに教えた人の声をなくした。次に顔を。最後は思い出だそうだ。あの日付はいつだったろう。飛行機雲が空に走る。あまりにも空が高くて目がくらんだ。泣けばよかった。なりふり構わず泣けばよかった。わたしはこの先ずっとわたしの1番をなくしたまま生きるんだ。暮らすんだ。